折り畳み自転車が「キュッ」と音を立てて止まり、一見、50代前半と思しき細身のおじさまが颯爽とNakoolに入ってくる。
「いらっしゃいませ!」オリハシのその声が出たときには、すでにおじさまはデニムの棚へと猪突猛進していた。
他の洋服には、全く目もくれず、ジーンズの棚の前で目を凝らしている。
「ははぁ~ん、やっぱりGパンね。。。」と心の中でつぶやく。
「よろしかったら、サイズを出しますので。。。」と言い終わる前に、おじさまの口が開く。
「あれっ?以前、こちらのお店にいた50代くらいの方は。。。?代替わりしたのかな?」
一瞬、オリハシは度肝を抜かれた!
オリハシが先代から引き継いで5年目である。正確に言うと4年と5ヶ月。
その間、以前からのお客さんはもうほとんど顔合わせしているものとオリハシは思っていた。
実際、昨年一年間は、ほとんどその代替わりのいきさつを説明した覚えがない。
なのにである。
5年目にしてまだ現れたのである。「すっすごい。。。」心の中で少し感動。
オリハシはそのおじさまに「かくかくしかじか。。。」とそのいきさつを説明した。
「そうかー、そんなに経つのかー。。。このジーパンもここで買ったんだけど。。。」
とボロボロに穿き込んだデニムをしみじみ見るおじさま。
「いつもジーパン2本買って、五年はずっとその2本で穿くからなぁーー」
やっ、やはり。。。
おじさまの穿いていた品番はすでに廃盤だったので、オリハシは新しく、似た感じのシルエット2本のリーバイスを見立ててさしあげた。
背は175くらい。。。ウエストは31インチ。。。十年以上サイズは変わってないらしい。それもすごい!
ズジャジャッと、ミシンで丈詰めをし、お会計。
「じゃ、またくるよ!がんばってね。」と爽やかに折り畳み自転車のサドルにまたがる。
「はい、ありがとうございました!またお待ちしてます!」とオリハシ。
おじさまは「にやっ」と笑いながら、ペダルをこぎ出した。
結局、おじさまは最後まで、他のアイテムには目もくれなかった。
そう。おじさまにとってどんなに置いてある服が変わっても、Nakoolはジーパン屋さんなのである。
それはそれで、すてきな買い物の仕方だなっとオリハシは思う。
今度、あのおじさまにお会いするとき、オリハシは35歳である。。。