会社や組織に属して生きてると
人間関係に悩んでしまうのは必然なわけで。。。
あっ、なんでこんな話をするかっていうと、
たまたまそんなような話をね、連続して聞いちゃったり読んじゃったりした
んです。
で、オリハシのような一人格闘技の個店でもそんな悩みはあるのか?
という話をしてみたいと思ったわけです。
商売っていわば単発の人間関係の連続だったりします。
で、それを継続的な人間関係に繋げていく。そんな部分があります。
ナクールのようなお店は店を構えてるだけで、
「どう?こんなボクですがお友達になりませんか?」
という無音のメッセージを話し続けているのに等しい、のです。
だから、そのメッセージを聞き取った人は継続的に人間関係が
繋がっていくし、聞き取れない人は一生付き合うことがないんです。
「こんなお店、嫌だよ。」と思った人は振り向きもしないわけです。
だから「人間関係」で悩む。
というのはこの8年間、一回もありません。
だけど、単発的人間関係でしんどいことは山ほどあります。(笑)
今日はそんなエピソードの一つを綴ってみます。
8年前、オリハシがナクールを継いで初めての秋を迎えたころ、10月の初旬。
ご存じのとおり、アパレル業界の基本は先行発注であって、秋冬モノは
3~5月くらいの展示会で発注するのが慣行。
オリハシがナクールを継いだのが4月からだから、その継いで
すぐの春夏モノは実は先代の父が先行で発注したものだったわけだ。
だから、正式には継いだ年の秋冬からオリハシ自身のセレクトに
なったわけだな。その初めての秋、10月。
まだ日中暖かいの日の夕方、ちょっと赤ら顔で、リーバイス505を穿き、
ミリタリー調のブルゾンを羽織ったおじさんがナクールに入ってきて、
いろいろと物色しだした。
どうやらレザーダウンに目をつけたようだ。
プライスはわりと店頭近くにあったほうが¥36000-、
奥のschottのほうが¥78000-
そのおじさんは¥36000-のほうに目をつけたようで。。。
「おい、これは中綿はホントにダウンなのか?」
とオリハシに聞いてきた。
オリハシはそのレザーは「牛」であること、中綿はダウン-70%、
フェザー30%であることを事細かに説明する。
そして、AVIREXやschottの代理店である某上○商会は
「レザー」には強く、中国生産のラインもバッチリで
低コストでオリジナルが出来る事情も説明。
そのおじさんは赤ら顔でオリハシにこう告げたのだった。
「よし、¥30000-にしろ。」
「いやぁ。。それはちょっと。」
「はぁ?お前、こんなところで、こんなものが売れるわけないだろっ!」
「どうするんだ?こんなにたくさんの在庫を!」
おやじ激怒。そのアルコール臭い息をぶちまけながらまくし立てる
「¥30000- にしろ!(買ってやるから的な勢い)」
ほとんど恫喝である。
「こんなのお前、1ヶ月経ったって売れないぞっ!」
「いやぁ、このレザーダウンが欲しくてバイト代貯めてる学生が
いるんですよぉ。。」
(オリハシは怒りをグッとこらえながら応戦)
こいつ、「こんなところで、こんなもの」って言いやがった。
正直言えば現金の3万円は喉から手が出るほど欲しいよ。そりゃ。
だけど、「こいつには絶対に売らないっ!」という身体のセンサーが
ビシビシと反応してくる。
「値引きは出来ません」
(メーカー営業時代は返品値引き王だったのに。。。笑)
「ちぃっ、今度、また見に来てやる!」
と舌打ちしながらそのオヤジは店を出て行った。
そんな日に限って「ヒマな一日」だったりするのだ。
悔しかった。
何で怒られなきゃいけないんだ?
武蔵小杉の商店街で、ナクールみたいなお店があったらいけないのか?
完全に自分を否定された気がした。
いや、自分だけならいいよ。でもナクールの存在を否定することは
オリハシの父を否定することと同義だ。
それには我慢ならない。
「おうおう、兄ちゃん、こんなのこんなとこで
売れるわけねぇ~だろ、馬鹿!負けろよ、買ってやるから。」
オリハシにはハッキリとそーいう風に聞こえた。
思考は暴走しだし、口に出さないけど、
「けっ、こんなとこでカッコつけた店やっちゃって。。。
売れるわけねぇーだろ。」
そんなふうに思っている人も多いんだろうか?その夜、
ネガティブに落ちていく速度は留まることを知らなかった。。。
一人で記憶が飛ぶほど飲んだ。がぶ飲みした。
苦い涙だった。。。
しかしどんなに落ちても次の日はやってくるのだ。
元気なふりしてシャッターを開けなくちゃならない。
後日。。。
めでたくそのレザーダウンはその学生の元に嫁いだ。
ほっと胸をなで下ろすオリハシ。
サイズ違いも、schottの¥78000-もレザーダウンはすべて完売する。
くそ~あのおやじまた来ないかなぁ。
そう思ってた11月中旬ごろ、
なんとホントにやってきたのだ。そのおやじが!
まさかホントに来るとは!
しかも、同じ格好、赤ら顔。
オリハシは「あ、はじめまして。。。」という感じが
伝わるような「いらっしゃいませ」をそのおやじに浴びせる。
「どうぞご覧ください。」
(そうだ、すみずみまでじっくりと時間をかけて見ていきやがれ!)
滞留時間にして1分もいなかったと思う。
そのおやじは一言も話すことなく、目も合わさずナクールを後にした。
それ以来、7年半、そのおやじはナクールに一度も足を踏み入れていない。
武蔵小杉で見かけることも、ない。
その日、閉店後、オリハシは小さくガッツポーズ。
ビールが格別にうまかったことは言うまでもない。
だが、あのときの対応はあれでよかったのか?
といつもいつも、ことある事に内省してきた。
もう少しうまく立ち回る方法はなかったのだろうか?と。
そーいうおやじにも「売ってしまう」、いや「売りつけてしまう」くらい
の技量がなければこの生き馬の目を抜く商売の世界ではやっていけないのでは
ないだろうか?と。
「くそ、あいつに乗せられて買っちゃったぜ。」
と思われてナンボが商売人じゃないのか?と。
もちろん今だったら、もう少し違うことが出来る。そう思う。
正解はない世界なのだ。
だからこそ、突き詰めて考えたいと思った。
オリハシにとってそれぐらいインパクトのある事件だったのだ。
あの一着しかないレザーダウンを購入した学生はもうすでに社会人、
昨年結婚もして一児の父となった。
あれ以来7年半、シーズンにして8シーズン。
彼はそのレザーダウンのジッパーを2回修理に出し、多少ほつれてきたなぁ~と思うほど着こんでくれた。
(もちろん彼がスーツを着ない職業柄ということもある。)
ついこないだの秋冬、2006~2007の秋冬、ついにそのレザーダウンは
破れて使い物にならなくなってしまったようだ。
「あぁ、あのダウン、もうダメになっちゃったよ。
ちょっと悲しいけど。」
彼はそう言ってくれた。
やっぱりよかった!
世の中にこれほど愛されている商品がどれほどあるだろうか?
右から左に使い古されていくモノたちばかりじゃないだろうか?
あの一着はやっぱりがんばって死守したかいがあったよ。
敵を作ると強烈な味方が出来る。
っていうのも一つの真理なのだ。
その日のビールはガッツポーズした日のビールよりもさらに数倍も
うまかったのは言うまでもないだろう。思わず飲み過ぎた。
何が良かった、悪かったっていうのは、
そんなにすぐ結果が出ることばかりじゃないのである。
商売は深い。
誰にも勝たないという方法で完全無敵を目指したいものだ。